東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)135号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1(一) 成立に争いのない甲第二号証の二(補正明細書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。
本願発明は、ゴルフ場などの芝生等植生地表特にコース内のグリーン又はコース外の練習用グリーンの造成方法に関するものである。(補正明細書第一頁第一六行ないし第一八行)。
従来、この種の芝生等植生地表の造成工法としては混合土壌タイプの工法、USGA方式の工法などが知られているが、それらはいずれの工法で造成されたものも、夏期高温乾燥時には、含水量が不足して乾燥し易く芝生等の育成が阻害され、また、グリーン上のコンデイシヨンを均一条件に維持することが極めて難しいという欠点があつた(同第一頁第一九行ないし第二頁第七行)。本願発明は、右知見に基づき、ゴルフ場などの芝生等植生地表特にコース内のグリーン又はコース外の練習用グリーンの造成が簡易迅速に行われると共に、造成後のグリーン上のコンデイシヨンが均一条件になるような造成工法を提供することを目的とし(同第二頁第八行ないし第一四行)、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(同第一頁第四行ないし第一四行)。
本願発明は、右構成を採用したことにより、グリーンは水はけが良好になり、また、乾燥時にあつてはピツト内にプールされた水が集水管を介して砂層内に還元給水され、砂層内に染み出た水分は、毛管現象により表土方向に上昇し、芝生の育成に効果があると共にグリーン表面に適湿を与えて良好なグリーンコンデイシヨンを維持することができる。特にグリーン表面(地表面)と基盤面が平行しているので毛管現象による水分の上昇が均等に行われ、グリーン表面のコンデイシヨンを均一に保つことができるという作用効果を奏するものである(同第五頁第九行ないし第六頁第二行)。
(二) 他方、第一引用例及び第二引用例には、審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。
2 原告は、本願発明は、基盤面に突状部を並列して波状に形成させ、その突状部の傾斜面の低位置に集水管を配設させたものであつて、特許請求の範囲に記載の集水用の「傾斜部分」とは「突状部」と同義語であり、このような構成は、本件出願前周知慣用のことであつたとはいえず、したがつて、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点<1>についての審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前掲甲第二号証の二によれば、本願発明の特許請求の範囲には、単に「基盤に集水用傾斜部分を形成する」「前記集水用傾斜部分のうちの低位置に集水管を配設し」と記載されているだけであつて、「基盤面に突状部を並列して波状に形成させ、その突状部の傾斜面の低位置に集水管を配設する」ことを表す直接の記載ないしは示唆は認めることができない。本願発明の集水用「傾斜部分」の用語が示す意味は、基盤面より下方にある集水管の配設個所に向けて傾斜を形成したものと文字どおり解して明確であり、右「傾斜部分」と突き出た形状の部分を示す「突状部」とが同義語であるとはいえない。したがつて、本願発明は、集水管を配設するために、基盤面に突状部を形成させるということはその構成要件としておらず、本願明細書中の、「基盤面Bを複数の突条部(傾斜部分)1を並列して波状に形成する(手続補正書第三頁第一一行ないし第一三行)。」との記載及び第1図(別紙図面一参照)に示されたものは、傾斜部分を特に、傾斜方向が反対となるように相対向して形成するという特別な態様で形成した場合に生ずる形状を表しているものであつて、本願発明における傾斜部分の形成に当たつての一実施例を説明しているにすぎないものである。
そして、一般に、排水を良くするために、集水用部分を傾斜させ、集水用部分の低位置に集水管を配設することは本件出願前周知慣用のことであることは当事者間に争いのない事実であるから、第一引用例記載のものにおいて、本願発明の「基盤に集水用傾斜部分を形成し、集水用傾斜部分のうちの低位置に集水管を配設する」との構成のようにすることは当業者であれば普通に採用し得る技術的事項にすぎず、この点における審決の認定、判断に誤りはない。
3 以上のとおりであつて、相違点<1>に対する審決の判断に誤りはなく、本願発明は第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとする審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
「地表面に平行して開削した基盤に集水用傾斜部分を形成すると共に前記基盤を含む開削孔部全面に亘つて不透水性シートを敷設し、且つ前記集水用傾斜部分のうちの低位置に集水管を配設し、この集水管の一端を集水兼水位調整用ピツトに連結し、また、これら集水管を含む前記不透水性シート上に所定粒度の砂を積み上げて床土としての砂層を形成し、さらに、該砂層上に砂と有機物の混合からなる植生用表土を客土することを特徴とする芝生等植生地表の造成方法